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大阪高等裁判所 昭和36年(く)4号 決定

少年 N(昭二一・一一・一三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、要するに本少年は原決定が認定したようなすり窃盗を働いたことはなく、原決定には重大な事実誤認又は処分の著しい不当がある、というのである。

よつて本件少年保護事件記録及び少年調査記録を精査するに、本少年に対する司法巡査古川方計の昭和三五年一二月一六日午後七時五分頃の現行犯人逮捕手続書並びに審判調書中の右古川巡査及び被害者○谷○子の各供述記載によつて、本少年が昭和三五年一二月一六日午後七時頃大阪市阿倍野区○○筋○丁目○番地の市バス○○○停留所で住吉川行きバスに乗車しようとしていた○谷○子が左腕に掛けていたハンドバッグ内から同人所有の手帳一冊をすり取り窃取したという原決定の認定した事実を優に認めうるから、原決定には重大な事実の誤認はない。また原決定がその理由中で示しているように、本少年は、満六才の幼少の頃より窃盗の非行を現わし、その後昭和三四年三月までの間には二〇回以上に及ぶすりと万引きを働き、その後においても原動機付自転車の窃盗・現住家屋の放火未遂等を行つており、その非行性は固着化して、人格は小児的で、他人に依存しようという欲求ばかりが強く、無気力、消極的で、自主的な適応への意欲や気構えは全く見られず、社会性に乏しく、発作的に常規を逸した危険な行動に出たこともあつて、既に昭和三四年一二月及び同三五年四月の二回にわたつて、本少年に対し収容保護(教護院に収容)すべきであるとの調査官並びに鑑別所の意見が出されており、一方本少年の家庭は同人の外父及び妹との欠損家庭であり、その父には殆んど全く保護能力もその資格も認め難いようであつて、諸般の情況上、本件の窃取品は手帳一冊という僅かなものではあるが、本少年に対しては性格矯正と環境調整のためには、収容保護も止むを得ないものと認められるから、原決定が本少年を初等少年院に送致する処分をしたのは相当である。よつて本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条により主文の通り決定する。

(裁判長判事 奥戸新三 判事 塩田宇三郎 判事 青木英五郎)

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